モーターの直入れとは?デメリットは?

このページでは以下の内容を解説します。

  • 直入れとは何か?
  • 直入れのデメリット
  • 直入れによって起こるトラブル
  • 直入れ以外の起動方法
目次

直入れとは?

直入れとは、モーターの始動方法の一つで、商用電圧をそのままモーターに入力して始動する方法です。特別な名称がついていますが、要するに電源を直接モーターにつないでスイッチをONにして始動させることを指します。

例えば、図1は一般的なモーターの運転回路を示しています。ブレーカーとマグネットコンタクタを経由してモーターが電源に接続されています。

図1 モーターの運転回路

運転ボタンを押すと、マグネットコンタクタがONになり、モーターに電源が供給されます。このようにモーターを直接電源へ接続して始動することを「直入れ」と呼び、全電圧始動とも言われます。

他の始動方法と比較して、直入れは回路が単純でコストが抑えられるメリットがあります。

直入れのデメリット

しかし、直入れには以下のデメリットもあります。

直入れは始動電流が大きい

最大のデメリットは、始動電流が非常に大きくなることです。停止状態から直入れでモーターを始動すると、短時間ですが定格の5〜10倍ほどの電流が流れます。この電流を「始動電流」と呼びます。始動から定格運転までの電流の流れは図2のようになります。

図2 始動電流

直入れによって起こるトラブル

直入れによる大きな始動電流が原因で、以下のトラブルが発生することがあります。

始動電流によるブレーカートリップ

始動電流が大きすぎると、異常ではないにもかかわらずブレーカーがトリップすることがあります。ブレーカーは、定格を超える電流が流れた場合に回路を遮断して配線を保護します。通常、ブレーカーは始動電流でトリップしないよう設計されていますが、負荷の種類によっては想定以上の始動電流が流れ、誤トリップすることがあります。

始動電流によるサーマルリレートリップ

サーマルリレーも、始動電流が原因でトリップすることがあります。サーマルリレーは、定格以上の電流を検知して回路を開放する装置で、通常は始動電流ではトリップしませんが、負荷によっては誤作動を引き起こすことがあります。

始動電流でブレーカーやサーマルリレーがトリップしやすい負荷は?

始動時間が長い負荷(停止状態から定格速度に達するまでの時間が長い負荷)は、図3のように始動電流が長時間流れるため、ブレーカーやサーマルリレーがトリップしやすくなります。

図3 ファンなどの始動電流

始動時間が長い負荷は、ファンなどがあります。

始動電流による電圧降下

始動電流による電圧降下も問題です。

モーターなどに供給される電圧は、発電所などから出力された電圧より通常は低くなります。これはケーブルがわずかに抵抗を持つためです。オームの法則(電圧=電流×抵抗)をイメージするとわかりやすいかと思います。

この式から分かるように電圧降下は電流に比例します。始動電流は定格電流の5~10倍程度と非常に大きいため、始動電流が流れている間は電圧降下もより大きくなります。

電圧降下は始動するモーターのみではなく、並列に接続されている他の設備にも影響します。(図4参照)

図4 電圧降下の系統への影響

そのためあるモーターを始動した際に、他の設備が停止したり、速度が下がるなどのトラブルが起きることがあります。

直入れ以外の起動方法

以上のようにモーターを直入れで起動すると、始動電流が非常に大きくなるため、設備への影響やトラブルが発生することがあります。これを防ぐためには、始動電流を低減できる他の起動方法を採用することが有効です。以下に代表的な起動方法を詳しく解説します。

スター・デルタ始動

仕組み

スター・デルタ始動はモーターを最初にスター(Y)接続で始動させ、ある程度回転数が上がった後にデルタ(Δ)接続に切り替えて定格運転を行います。

  • スター接続:始動時に電圧が1/√3(約58%)に低減され、始動電流も約1/3になります。
  • デルタ接続:通常運転時の接続方式で、定格電圧がモーターにかかります。

利点

  • 始動電流の低減:スター接続で始動することで、直入れに比べて始動電流を大幅に低減できます。
  • コストが比較的安い:追加の部品(スター・デルタ切替スイッチなど)が必要ですが、他の電子的な起動方法に比べてコストが抑えられます。

注意点

  • 切り替えタイミングの調整が必要:スターからデルタへの切り替えタイミングが遅いとモーターの起動が遅くなり、逆に早いと大きな電流が流れる場合があります。
  • 電気的および機械的衝撃:切り替え時に一時的に電気的・機械的な衝撃が発生することがあり、これが設備に影響する場合があります。

ソフトスタータ始動

仕組み

ソフトスタータと呼ばれる装置を使う始動方法です。ソフトスタータは、電子的な制御装置を使用してモーターへの電圧を徐々に上昇させます。主にサイリスタやトライアックなどの電子部品を用いて、モーターへの電圧を段階的に増加させることで、スムーズな始動を実現します。

利点

  • 始動電流と機械的衝撃の低減:始動時の急激な電流上昇や機械的な負荷を抑え、モーターや設備の保護ができます。
  • 設定が柔軟:始動時間や電圧の上昇率を細かく設定できるため、さまざまな負荷特性に対応可能です。

注意点

  • コストが高め:ソフトスタータは電子機器を多用するため、導入コストが高くなることがあります。
  • 熱の管理が必要:電子部品が発熱しやすいため、適切な放熱対策が必要です。

3. インバータ始動

仕組み

インバータを使った始動方法です。インバータは周波数を制御する装置ですが、装置の仕組み上、電圧を徐々に上げながらモータに供給することができます。そのためモーターの加速も緩やかになり、始動電流も小さく抑えられます。

利点

  • 非常にスムーズな始動:周波数と電圧を制御することで、モーターの回転速度を段階的に増加させるため、始動時の電流が最小限に抑えられます。
  • 多様な制御が可能:インバータは始動だけでなく、運転中の回転速度制御や省エネ運転も可能です。これにより、エネルギー効率を向上させることができます。
  • トルク制御が可能:低速でも必要なトルクを確保できるため、重負荷や高トルクが必要な機器に対しても有効です。

注意点

  • 高コスト:インバータ自体が高価であるため、初期導入コストが高くなることがあります。
  • 複雑な設定:運用や設定が複雑になる場合があり、専門的な知識が必要です。

まとめ

モーターの直入れは簡単でコストが低い始動方法ですが、大きな始動電流によるトラブルが発生しやすいというデメリットがあります。これらの問題を防ぐためには、スター・デルタ始動やソフトスタータ、インバータ始動など、始動電流を低減できる方法を選択することが重要です。モーターの特性や負荷の種類に応じて最適な起動方法を選び、設備の安定運転と保護を図りましょう。

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